ドラッグストアの必殺技「どちらもほとんど変わりません」

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研修医の必殺技

先日、医療者向けウェブサイト(※)で医師が書いた「研修医の必殺技」というコラムを読んで吹き出してしまった。医療従事者も人間なんだね(当たり前だけど)と思えるコラムだった。

大学を卒業したての医師は「研修医」と呼ばれる。彼らは実務経験が少ないので、現場で「指導医」と呼ばれる先輩医師に指導されながら、より実践的な知識を得ていく。指導中、研修医は指導医から色々な質問を与えられる。たとえば、レントゲン写真を見せられて、

「鑑別疾患を挙げてください(考えられる病気を挙げてください)」

といった具合。すると、なかには「えーっと、えーっと」としどろもどろになる研修医がいる。さあ、そんな時に研修医はどうしたらいいか?

本コラムでは、こんな殺し文句を紹介している。

「薬剤性は否定できないですね」←(薬の副作用であることは否定できないってこと)

こういえば、とりあえずその場を過ごせるというのだ。薬は副作用には色々な種類があり、ありとあらゆる症状をきたすので「薬剤性が・・・」と言っておけば、間違いにはならないというわけだ。なるほど(笑)。

もちろんこれは指導医の質問をかわすための必殺技で、実際の患者の前で使ってはいけないと、筆者は釘を刺している。

 

必殺「ほとんど変わりませんッッ」

実はドラッグストアにも、似たような必殺技がある。お客から薬ごとの効果の違いを訊ねられて、その答えがわからなかった場合だ。

バイトを始めたころ、僕はお店の商品のラインナップも、薬の成分も十分に頭に入っていない状態で売り場にいた。そんなころに、中年の女性客から2種類の風邪薬の効き目の違いを訊ねられた。落ち着いて成分表を読めば、違いはある程度わかったはずだけど、僕はかなりテンパっていた。そして、成分表を確認している間の沈黙が苦しくて思わず、

「・・・ほとんど変わりません」

と答えてしまった。口にした瞬間、しまったー!と思ったのだけど、意外にもお客は「そう」とおさまった。

ドラッグストアの必殺技、それは薬同士の効果の違いを聞かれてわからなかった時に「ほとんど変わりません」と言うことだ(自信満々に言うとなお良し)。「変わりません」と言ってしまうと、厳密な意味ではウソになる。けれども”ほとんど”といえば、これは主観なのでウソにはならない。答えているようで答えていない、オールマイティな言葉なのだ。

 

禁断の技の破り方

しかし、これは必殺技であると同時に、禁断の技でもある。能力の低い店員が、自分の知識のなさを隠し、その場を取り繕うためだけに、このフレーズを使うことがあるからだ。僕の場合がそれで、たぶん、言われた女性客は内心、いぶかしく感じていたと思う。自分が恥ずかしいし、お詫びしたい。

たとえば、代表的な風邪薬である「パブロンS」と「新ルルA錠」を比べてみると、両者には合計12種類の成分が含まれていて、そのうち共通する成分は全体の2/3。残り1/3は両者で成分が異なる。

同じパブロンシリーズの「パブロンS」と「パブロンエースAX」を比べてみても、共通して含まれている成分は約半数だけ。そして値段も一日換算で数百円も違う。

効き目は個人差と症状によるのだけど、少なくとも含まれる成分や価格には、なにかしらの違いがある。だから、ドラッグストアの「ほとんど変わらない」という必殺技を破る方法は簡単で、「しいて優劣をつけるとしたら何ですか?」と聞けばいい。

僕自身、いまでも時々「ほとんど変わりません」というフレーズを使うことはあるのだけど、その場合は「ほとんど変わりません。ただし・・・」と、変わらない理由や、細かな違いを説明するよう心掛けている。これは、「その場を取り繕っているわけじゃないですよ(汗)」という僕の過去の罪悪感からくる密かなメッセージでもあったりするのだけど。

 

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