ドラッグストアとジャーナリズム

自分に合った市販薬を選びませんか?

【報告】市販薬情報の伝え方を考える勉強会(前)~情報供給側に立ち塞がる『3つの壁』~

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市販薬をテーマにお話ししました

先日、メディカルジャーナリズム勉強会が主催する『伝え方サミット』というイベントに登壇させていただきまして、医師の平憲二さん、薬剤師の高橋秀和さんと一緒に「市販薬」をテーマにお話しさせていただきました。

お陰様で満員御礼!

お陰様で、当初の定員50名から枠を拡大して60名となり、予約は満員御礼の中で当日を迎えることができました。主催者側からは、大手メディア、医療専門メディアの方々が多くご参加くださったと聞いています。お忙しいなか足をお運びくださりありがとうございます。イラストレーターのオオスキさんには漫画にしていただきました。

このブログでは、当日私が話したことの一部を、少し補足しながらご紹介します。

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市販薬情報が少ない3つの事情

今回のイベントを引き受けた私の目的は、

「市販薬に関心を持ってもらいたい!」

というものだったので、

「市販薬情報はまだまだ少ない。それはニーズ(需要)がないからではなく、供給側(専門家側)に、情報を発信しにくい事情がある。市販薬情報の発信は『3つの大きな壁』を抱えている」

ということをまずお伝えしました。

3つの壁について1つずつご紹介します。

1つめの壁:市販薬に主として携わる薬剤師が少ない

医薬品には『医療用医薬品』と『OTC医薬品(市販薬)』があり、現代の薬剤師の多くが主として携わっているのは、医療用医薬品のほうです。OTC医薬品を扱っている薬剤師はたくさんいますが、業務の大部分は医療用医薬品で、OTC医薬品は”片手間”になりがちです。

誤解しないでいただきたいのは、薬剤師が怠惰なのではなく、医療用医薬品の業務には非常に多くの資源を注ぐ必要があるので、OTC医薬品の優先順位は低くなってしまう事情があります。1961年の国民皆保険制度のスタートによって、医療の産業構造は大きく変わり、人材もお金の流れも医療用に偏っています。厚労省の「医薬品用途別産業比率」では、昭和25年頃は医療用医薬品・OTC医薬品は45:55でした。OTC医薬品のほうが大きかったのです。それが、直近(平成28年)のデータでは、89:11に逆転しており、いかに医療用医薬品にお金が流れているかがわかります。「うちの代々続く薬屋は、国民皆保険制度が始まる前がいちばん儲かった」。そんな話も直に聞いたことがあります。

近年はセルフメディケーションを推進するための政策誘導により、OTC医薬品を扱う保険調剤薬局は全国的に増えているはずですが、保険調剤業務と比較すればOTC医薬品の収益は微々たるものです。

ようするに、医療用医薬品に携わる薬剤師は保険調剤業務が中心であり、市販薬を本腰入れて取り組むのは難しいのが現状です。

2つ目の壁:専門家ほど市販薬記事を書きにくい

医療用医薬品は新しい薬が発売されると、その薬がどれだけ効くか、副作用はどの程度あるかといった、非常に細かい科学的データ(エビデンス)が開示されます。医療従事者はそれを読んで新薬の良し悪しを評価します。

ところが市販薬ではそうはいきません。たとえば痛み止めの「ロキソニンプラス」という痛み止め薬の場合、従来のロキソニンに胃酸を中和する酸化マグネシウムが追加されて”胃にやさしい薬”として4年前に発売されました。ところが、ロキソニンプラスには、どれだけ従来品よりも胃にやさしいかを示すデータは公表されていません。ほとんどの市販薬は、新発売時に科学的データが公開されないのです。

専門家である薬剤師としては「酸化マグネシウムでどれだけ胃への負担が実際に軽減されたの?」と疑問に思ってしまいます。科学的データがないので、良いとも悪いともいえない。エビデンスをもとに薬を評価する従来の医療専門誌などが採用するスタイルで記事を書くことは非常に難しいといえます。

専門家が記事を書きにくいもう一つの要因は、2017年のグーグル健康アップデートです。これによって、一般のブログ記事が検索結果の上位に上がりにくくなりました。2015年頃は、先述の「ロキソニンプラス」で検索すると、上位10記事のうち3つが薬剤師のブログでした(私のブログは4番目に表示されました)。それが2019年現在では、中山祐次郎さんという医師のヤフー記事がかろうじて9位か10位に表示され、あとはほとんどが通販サイトかメーカーの公式サイトです。ヤフーの記事がかろうじて10位に入るレベルですから、無名のブロガーが上位に食い込むのは非常にハードルが高いといえます。

エビデンスが乏しくて記事が書きにくい、おまけに書いても検索されずに読まれない・・・情報を発信するモチベーションを維持するのは容易ではありません

幸い、最近は薬剤師の方々や、医師の方々が市販薬についてエビデンスを元に書く記事が増えてきたと感じます。数年前よりも明らかに増えました。それでも、全体として見ると、まだまだ少ないと思います。

3つめの壁:市販薬に関心が集まりにくい社会制度

いまの市販薬の購入はセルフが中心です。これは決して当たり前ではありません。メガネ、洋服、家電などを購入する際は、店員に相談すると思います。なぜならそこに店員がいるから。ところが多くのドラッグストアでは、スタッフはレジや入荷作業で忙しそう、薬剤師は調剤コーナーにいて、声がかけにくい環境です

また、店にもよりますが、一般的にはスタッフ側は薬の情報提供に積極的とはいえません。というのも、ほとんどの薬は法律上、情報提供が『努力義務』で済まされているからです。そのため、お客さんから聞かれたら答えますが、聞かれなければ情報提供しないスタイルが定着しています。

さらに、ECサイトで薬のレビュー/クチコミが法律で禁止されていることも少なからず影響しているように思います。現代の消費者は、商品を購入する前にまずアマゾンでレビューを見ます。しかし、市販薬はクチコミが禁止されているので、評判を知ることができません。商品について良し悪しを語る身近なプラットフォームがないのです(アットコスメなどはありますが利用者は限定されています)。私はクチコミを解禁すべきと思っているわけではありませんが、米国・中国ではECサイトでの薬のクチコミは許されていることは知っておいてもよいと思います。

提案:市販薬情報の総量を増やそう!

まとめますと、「市販薬に本腰を入れている薬剤師が少ない」「専門家ほど記事を書きにくい」「世間の関心が集まりにくい社会制度」という3つの壁があります。ですから、決して市販薬の情報の需要がないわけではないのです。需要はあるけど、供給されにくい事情がある。情報の総量が少ないので問題点が可視化されない。これがいまの状態だと私は認識しています。

そこで私としては、

「市販薬情報の供給は容易ではないが、まずは総量を増やすことから始めよう」

という提案をしたいと思います。総量が増えれば、需要も顕在化するでしょう。

その際に、どんな市販薬情報を伝えればいいのか。今求められているのはどんな情報か。続きは後半で述べたいと思います。