薬剤師がいなくてもロキソニンが買える!?
解熱鎮痛薬「ロキソニンS」のお世話になっている人は少なくないだろう。販売元の第一三共ヘルスケアによると、年間売上は40億円(※1)。1箱700円で単純計算すると、毎年570万個も売れていることになる。すごっ。
さて、このロキソニンは、いつも買っている人はご承知の通り、薬剤師が店にいないと購入できない、ちょっと不便なシロモノ。
でも、この薬がいつでもドラッグストアで購入できるようになる!・・・そんな話が、ちょっと前まであった。
厚生労働省が集めた有識者と呼ばれる医師・薬剤師たちが、メーカーが集めた副作用データを審議して、安全性について賛否両論の議論をしたのは去年の夏の終わりのこと。会議では「いま売られている他の解熱鎮痛薬と比べて、厳格な扱いをする理由はない」という結論が下された(※2)。
その後何事もなければ、いまごろドラッグストアで、いつでもロキソニンを買えていたかもしれない。ところが。8月に開かれた有識者たちの会議から3か月後の11月、この話は立ち消えになった(以下、薬剤師・登録販売者には周知の情報です。あしからず)。
日本語が書ければ誰でもできるパブリックコメント
8月の有識者会議ののち、9月になって厚労省はパブリックコメントを募集した。パブリックコメント(通称パブコメといいます)というのは、一般の人たちから広く意見を募ることをいう。ロキソニンが薬剤師がいなくても買えるようになることについてご意見ください、と厚労省は呼びかけたわけだ。ちなみに、パブコメは日本語が書ける人なら、医療従事者じゃなくても誰でも書ける(※3)。
パブコメは行政手続法で定めされたもので、国が何かルールを変える時は基本的に必ず行うことになっている(※4)。もっとも、一般市民は何が起きているかまったく知らないので、公募で集まった意見は、特定の業界の関係者から寄せられることがほとんど。このとき寄せられた意見は1か月間で全10件(※5)。え?たった10件ですか?そんなものです。みんな知らないから。
実際に集まったコメントがコチラ。寄せられた意見のうち8つが、ロキソニンが薬剤師不在でも買えるようにすることに反対だった。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000065370.pdf
ロキソニン販売には永遠に薬剤師が必要かもしれない
で、このパブコメや、前回の有識者会議の結果をもとに、11月に有識者が集まって別の会議を開き、あれやこれやと議論した結果、会議の議長(正式には部会長といいます)が「慎重意見が多いから、やっぱロキソニンは薬剤師じゃないと売れないままにしときましょ」みたいなことになった(※6)。
なぜ、最初の会議とちがう結論になったのか。
ロキソニンは同じ系統の鎮痛薬(アスピリン、イブプロフェンなど。アセトアミノフェンは除く)と比べて、副作用の多い薬ではないとされる(これは裏を返せば、他の鎮痛薬もロキソニンと同じくらい注意が必要ってことでもあるのだけど)。でも、安全性の科学的評価はさておき、実際運用するとなると、妊婦さんとかが不適切な使用をして健康被害が出る可能性はなくはないから、科学的根拠はさほどないけどとりあえず今回はやめときましょうよ。というような議論が議事録に記されている。
たぶん、ロキソニンの販売を規制すべきだと考えている人にとっては、「当然」な結論だろうけど、そうでない人にとってはかなりムリクリな理屈だと思う。いずれにしろ、この論調が続くならロキソニンは永遠に薬剤師なしでは買えない薬になりそうだ。ロキソニンを薬剤師抜きで買いたいと思っている人、ひとまず諦めてください。文句があるなら、ブログやパブコメで意見表明することをお勧めします。共感してくれる人も、いると思いますよ。
健康被害といえば、先日、消費者庁が市販薬の副作用の被害状況を発表した。市販薬の副作用というのは、身近な問題の割にいままで注目されてこなかったせいか、大手紙でも取り上げられた。発表元が消費者庁であるように、副作用被害に遭わないようにするにはどうしたらいいか、という消費者側への提案と受け取れる。
ロキソニンの件は厚労省主導で物事が進んでいった。年間570万個売れている大衆薬だが、世間はあまり注目しなかったように思う。消費者庁が取り上げたら、また違った展開になっていたかもしれない。
※1http://www.yakuji.co.jp/entry40184.html
※2 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000065367.pdf
※3 file:///C:/Users/kurihara/Downloads/s49514022501.pdf
※4http://www.e-gov.go.jp/help/public_comment/about_pb.html 参考として、河野太郎議員のブログもおもしろいhttp://www.taro.org/2015/02/post-1571.php
※5 file:///C:/Users/kurihara/Downloads/t49514022501.pdf