『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

水虫薬回収問題について、GMP畑の方からコメントもらったよ

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医薬品の製造・品質管理に詳しい方からの情報提供

「ピロエースZ」など複数の水虫薬が自主回収されたことを前回書いた。これについて、医薬品の製造・品質管理に詳しい「家具運び」(@kaguhakobi)さんがツイートで興味深い見方を示してくれたので紹介したい。家具運びさんは、医薬品の製造・品質管理の分野(GMP/GCP分野)に従事する技術屋さん。薬剤師免許を持っている。

この分野に従事している薬剤師さんの意見って、あまり聞いたことがないので、ちょっと専門的な内容になるけど読んでほしい。貴重な機会だと思う。

 前回の記事がこれね↓

 

どうして公表されないのか

自主回収した製薬各社の発表によると、自社の水虫薬製品の製造において「GMP管理上の不備」があったことを国側から指摘されたという。GMPってのは、国が決めた薬の製造・管理に関するルール。水虫薬を作る上で、なにか問題があったらしい。

そこで、ぼくがフシギだったのは次の2点。

①問題の現場となった”原薬製造業者”の名前が公表されてない

②「GMP管理上の不備」というおおまかな説明しかない

たぶん、製薬側から見たら「事情を知らない奴が勝手なこと言ってるな」とか思いそうな素人丸出しの意見なんだろうけど、ひとつ大目にみてください。だって、世の中の99%の人は素人(製薬に携わってない)なんだし、”事情”が本当に合理的(※1)かどうかを判断できるのは、製薬側(当事者)ではなく第三者なのだから。

 

120万個回収。ドラッグストアに返品客が来ている

今回の自主回収は、市販薬と医療用医薬品の両方が対象だ。その数は市販薬だけで120万個に上る(※2)。当然、ドラッグストアの現場にもちょっと影響が出ている。ドラッグストア勤務の「りちお」さんは、早速こんなコメントをブログに寄せてくれた。返品に来るお客が出てきたという。

メーカーが自主回収してることを知って返品に来てくださる方がちらほら出てきました。どなたも「ニュースでも使っても害はないって言うてたけど回収してるようやから」と返しに来てくれはる。けど、我々情報提供者は「なんかわからんけど回収ですって」ではあかんし、今回、モヤっとしてます

 

製造・品質管理に従事している方の視点

さて、これについて、冒頭で紹介した医薬品の製造・品質管理に詳しい「家具運び」(@kaguhakobi)さんがツイートでコメントしてくれた。ご本人の許可取得の上、紹介する。

家具運びさんからは、転載にあたって、

「真実については正式な情報提供が無いことには分からない、それを踏まえた上で、どんなことが考えられるのか、無限にあるうちの考えの一つとしてのご紹介であれば、ご活用ください」

と言われている。そうですね。

さて、その内容は以下のとおり(ツイッターの直接引用ができないのでテキストで抜粋) 。

 

たぶん秘密保持契約云々がありそうなのと、別ラインで起きた事象なので明かされないパターンってのもありそう。あとは分かりやすい説明が困難な、クッソ面倒なパターンか。

承認情報の履行という意味ではプロセスに問題があるけど成果物的には品質試験をパスする品質が保てていて…ってパターンとか。品質を保てないかもってのは、統計的に外れる可能性を捨てきれないってときに使うことが多い表現ですわ。

現場に降ろせるほどに情報がまとまらないってことはままあって、それを待って判断してたら遅くなりすぎるから、先にクラス2回収やってしまうってのは、製造側としては妥当な判断。絶対にそれでないと死ぬ薬ではないのだから尚更そんな判断になります。

挙げられた過去の事例だと分かりやすいんですよ(kuriedis注釈:ぼくがブログで挙げたタナベ調律の自主回収の過去事例)。含量不備はそれだけで不適の理由になるから。たぶん今回のは、数段説明が面倒なパターンです。GMPは工程と最終品質の両方が要求されますが、たぶん今回は前者でやらかした結果が後者に微妙に影響したとかで、最終規格的には「当初設定したものとしては平気」なもの。精査した方が良いかどうか、今後議論が発生しうる段階であると。でも議論した末に精査して結果が出るまではそれなりに時間もかかりますから、今のところは速度優先、と。

 

で、以下が家具運びさんの個人的なツイート。

 

この一件、理屈から言えばMF外の製法か、不適切な経路使ったか、あるいはそれらの可能性を否定できなかったか、その辺なんじゃないかなぁと。可能性を否定できないってのが一番厄介。検証に時間かかるから。類縁パターン変わってて未知類縁が規格内だが高値とかだったりして。 もちろん勝手な想像。

未知類縁は量が少ないから未知類縁なわけで。元々少ないから管理値も小さいんだけども、管理値内で増えてくるとそれはそれで厄介。薬理学的知見得られてないから、それを厳しく管理したらいいか分からない。

製造方法が違ったって、ファインケミカルを得たいという目的を達成していたなら、最終産物の品質はそこまで変わらない。でも、GMPではプロセスが不適切なものは最終品質がどうであろうと不適切だから、回収には至る。健康被害もまず起きない。この辺が地味に厄介なところ。指導甘いと痛い目見る。

プロセス不備以外の原因だと、洗浄Va不備(kuriedits注釈:洗浄バリデーションのこと。共用で使っている機器が普段の洗浄方法でちゃんと洗浄できているかの検証をいうと後日家具運びさんより解説がありました)とかかなぁ。これも歯切れの悪い見解提示となるパターンになる。その場合、他成分コンタミの疑いってのが真の理由にはなるけど、結果的には測定値として現れるほどではなかったのであろうから、コメントに窮する。

 

そして、事実は不明なままなわけで・・・

ふんふん、なるほどなあ・・・って半分くらいしかぼくたぶん理解してないと思うんですけど(だってGMPとか普段接触ないし汗)、とっても勉強になりました。

このツイートの後、あらためて自分の記事を読み返すと、言い過ぎた箇所もあって反省した。

ただ、家具運びさんもおっしゃっているように、コトの事実はわからない。家具運びさんの読み通りかも知れないし、別な不適切な理由があるのかもしれない。それが部外者にはわからないということが問題だと思う。

だからぼくは、やっぱり製造業者名は公表すべきだと思うし、「GMP管理上の不備」というモヤっとした言葉以上の説明が必要だと感じている(企業が公表すべきか、行政がすべきか、という議論はあるべきと思う)。みなさんはどう思うだろうか。

家具運びさん、ありがとうございました<(_ _)>

 

 

※1ここでいう「合理的」というのは、製薬企業にとってビジネス上合理的かどうかではなく、社会通念上許容かどうかです。わかりやすくいうと、世間が知ったとして納得できる理由かどうかです。

※2水虫薬120万個自主回収…健康被害の恐れなし : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)