ドラッグストアで知る未知の市販薬
ドラッグストアには、店頭でその存在を知る薬が多々ある。それらの薬は、全国放送のテレビCMで見ることはなく、家族・知人との会話に登場することはない。しかし、ある程度の広さを持つドラッグストアで探せば、大抵見つけることができる。ある意味、”知る人ぞ知る”薬である。
ツイッターで評価が高い
「百草丸(ひゃくそうがん)」という胃薬がある。
ドラッグストアで働くまで、ぼく全然知らなかった。あるとき中年の女性客から、
「百草丸あります?」
と指名買いされた。以来、なんとなく気になっていた。
ツイッターで「百草丸」を検索すると、でるわでるわ、百草丸のファンの声。
「葛根湯とビオフェルミンと、百草丸と、ユースキンは信頼してるよ」
「ミンチカツ?メンチカツ?がおなかで暴れている( ´△`)こんな日に限ってとっておきの百草丸は会社だわー」
「自分の常備薬は百草丸」というツイートが、ここ1か月ちょい遡っただけでも3つあった。
ときどきツイッターで市販薬のクチコミをチェックしているぼくの印象でいえば、これは評価が高いほうだ。百草丸の発祥が長野県のため、同県民のツイートが多い。
ツイッターの評判には「腹痛に効いた」という声も結構ある。百草丸とは別の下痢止め薬「百草」と混同している可能性もあるが(百草丸も腹痛に効く成分は入っているけど)、いずれにしろ百草丸を好んで利用している人たちが一定数いることは間違いない。
霊峰の民間伝承薬「百草丸」
さて、百草丸、どんな薬か。
百草丸は去年噴火があった、あの長野県・御嶽山にちなんだ民間伝承薬だ。御嶽山は古来霊山として、採薬術、合薬術を身に付けた修験者たちが集う場所だった。百草丸は、そんな彼らが持つ薬の一つだったと言われている。
今日、百草丸を発売している長野県製薬のウェブサイトより引く。
寿光行者(普寛行者の高弟)が、王滝口登山道を開くのに五年の歳月を費やしたが、その際に協力してくれた王滝村の村人に対し「何も御礼するものがない。せめて “霊薬百草” の製造が今後役にたてば幸いである。」と、王滝の村人に百草の製造を指導したのが現在の百草の始まりとされています。
キモは3つの生薬成分
百草丸は、オウバク、ゲンノショウコ、ビャクジュツといった、胃腸に作用する生薬からつくられている。
「長野県製薬」から発売している「御嶽百草丸(おんたけ・ひゃくそうがん)」と、日野製薬から発売している「御嶽山日野百草丸」(おんたけさん・ひのひゃくそうがん)の2種類があり、両社は使っている生薬の種類が少し異なるが、共通して使用されているのは、オウバク、ゲンノショウコ、ビャクジュツ3つなので、この3成分が百草丸のキモといえるだろう。
この3つの生薬はどんな成分なのか。ざっくりいうとこんな感じで言われている。
【オウバク】
キハダという植物の樹皮からつくった生薬。その有効成分は「ベルベリン」と呼ばれる腸内の腐敗防止・腸運動抑制(痛みを抑える)
【ゲンノショウコ】
名前のまんま、ゲンノショウコからつくった生薬。下痢止め効果があり。飲むとすぐ効く、という意味で「現の証拠(ゲンノショウコ)」が由来とされるが真偽のほどは不明(※)
【ビャクジュツ】
オケラという植物の根茎からつくった生薬。胃腸を整える
実際は「下痢止め薬」というより「胃腸薬」
オウバクとゲンノショウコのセットは、下痢止めでお馴染みのコンビだ。「ワカ末止瀉薬」「ビオフェルミン下痢止め」などはこの2つの成分からなる下痢止め薬だ。また、医療用では「フェロベリン配合錠」という下痢止め薬がある。
ただ、百草丸の場合は、”下痢止め”に特化させていない。胃腸の調子を整える生薬を3,4つ使っていて、”下痢止め薬”というより、”胃腸薬”といったほうが正しい(下痢止めはベルベリン、百草丸はオウバクで成分量を表記しているため、単純比較が難しい)。
長野県製薬と日野製薬の百草丸のちがいについては割愛する。気になる人は店頭で薬剤師または登録販売者にきいてほしい。また、民間伝承薬という響きから、なんだか効きそうなイメージがあるかもしれないけれど、ぼくはここで一言も「百草丸超効くよ!」なんて書いてないように、効果のほどは保証しない。
下痢止め薬としては、オウバクだけを4倍量(エキスではなく原料となる生薬量換算として※2)も多くした「御嶽百草」(”丸”が抜けている)がある。混同しないようにご注意を。
※1たとえばこちら。
https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/crude/070316/
※2 御嶽百草丸はオウバクが原生薬として2240mg、御嶽百草は9000mg。