ダメなサイトが大事なことを教えてくれる
まったくね。かつてコンテンツ(記事)を作ることを生業としていた身としては、読めば読むほど怒りだけがこみ上げてくる出来事だった、WELQ騒動。このメディアはライターにパクリ方法まで指南してたらしい。コンテンツメーカー舐めんなよと言いたい。
ただ、こういうダメなサイトは、実はとても貴重な存在だ。クズみたいなサイトこそが、本当に大事なことを教えてくれる。ネット上では、今回の騒動を通じて、健康情報の在り方が論じられている。
どんどんやってください。
「ネットは信頼できるか」よりも大切な問題
ぼくが常々思っているのは、健康情報をメディアで流すことの限界だ。メディアの健康情報は、一般論しか語れない。個別の患者や消費者の課題を解決する能力は持ち合わせていない。
よくいわれることだが、医療とは個別性の高いサービスだ。ネットで知った健康情報を、どんな風にして自分のケースに当てはめるのか。これは、WELQ騒動以来巷で論じられている「ネットの健康情報は信頼できるか、できないか」という二者択一の論点とは違うけど、むしろより大事な問題だとぼくは思っている。
何を聞いていいかわからないお客たち
ドラッグストアで働いていると、薬の棚の前で立ち尽くすお客をよく見る。声をかけると、
「いろいろ(薬が)あって、どれがいいのか・・・」
というお客は珍しくない。そういう人たちは、何を基準に薬を選んでいいか分からない。薬剤師や登録販売者に、そもそも何を聞いていいのかも分からない。せいぜい、「効くのはどれですか?」とか「**の痛みに使う薬はどれですか」といった、漠然とした質問しか持ち合わせていない。
「よく分からないからお任せ」時代はお終い
お客と店員が持つ知識の差が大きい。こういう”情報の非対称性”が大きいと、「よくわからないから、お任せします」というパターナリズム一直線な展開になりやすい。
病院では長年、こういう”お医者様にお任せ”が続いていた。ところが、ここ何十年かで、これは患者にとっても医療従事者にとっても不幸なことが多くなってきて、いまでは”インフォームドコンセント”や”セカンドオピニオン”という言葉が普及して、患者側が自ら自分の治療について考え、医師と相談して決めることが増えた。患者自身が、書籍などを読んで勉強するようになった。
ドラッグストアで何を相談すべきか。それが問題だ
こうした時代の流れを見ると、いま必要な健康情報は、
「ドラッグストアで、薬剤師や登録販売者に、何を聞けばいいか」
ということじゃないかとぼくは思っている。
「薬剤師に、何を相談すればいいのか」
「どんな薬剤師に、相談すればいいのか」
「なぜ、薬剤師に相談したほうがいいのか」
これがわかると、ドラッグストアでの買い物は、ずっといまより質の高いものになると思う。少なくとも、薬の棚の前で、1人で悩むという時間のムダはなくなる。
何のために「健康情報」を提供するのか
ぼくのブログは市販薬を紹介している。これは、利用者が一人で薬を選べるような知識を与えているため・・・ではない。店頭でどんなことを薬剤師に質問したらいいのか、なぜ質問した方がいいのかを伝えるためだ。自分の健康だもの。誰だって真剣に、できるだけ納得して買いたいでしょう。
さらに、消費者が市販薬に興味を持つことで、薬剤師の職能は磨かれ、あるいは市販薬市場が”良いものが売れて、そうでないものは売れない”という環境になると考えている。
WELQの編集部は「健康情報」を提供するという手段を通じて、どんな社会を作りたかったのだろうか。ぼくは、記者会見の全文を読んだけど、分からなかった。
改めてこの会見を見ると、社会から批判される健康情報サイトの要件がよくわかる。大事なことは、クズな健康情報サイトが教えてくれる。