『家庭の薬学』

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富山の妙薬「反魂丹」と、その伝説を「磯部磯兵衛物語」風に紹介

 

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富山の「反魂丹」を知ってますか?

【第2類医薬品】胃腸反魂丹 2包

【第2類医薬品】胃腸反魂丹 2包

 

 「反魂丹(はんごんたん)」という丸い形の薬がある。胃腸の痛みに効く、富山県で古くから伝わる妙薬だ。妙薬・・・なんてワクワクする響き。

富山県は、今も昔も薬の産業が盛んだ。昔は薬の行商人がいた。「富山の薬売り」という言葉もある。全国に名を馳せた富山の薬売りたちに、「反魂丹」は欠かせない商品だったといわれる。富山を代表する薬だったみたいだ。

 

消化管の働きを整え、痛みを抑える

反魂丹の歴史は長い。江戸時代の医書に登場する。現代では、富山市に本社を置く「廣貫堂」という製薬会社が「胃腸反魂丹」という商品名で販売している。

胃腸反魂丹の成分と効果は以下の通り(効果はざっくりしたもの。実際は重複する部分が多々ある)。

エンメイソウ・・・消化管の働きを整える

オウバク・・・抗菌作用

オウレン・・・炎症を抑える

ゲンチアナ・・・消化管の働きを整える

モッコウ・・・消化管の働きを整える

ロートエキス・・・痛みを抑える

www.koukandou.co.jp

 

富山の代表薬だけど、富山発祥じゃない・・・

富山市売薬資料館が編集・販売している「富山の薬―反魂丹」という本がある。本書によれば、反魂丹の由来は、中国の「妙功十一丸」という薬にある。本薬が日本で改変されて「延寿反魂丹」という処方になり、これを踏襲したものが富山に伝わり、富山流の反魂丹になった。富山を代表する薬の反魂丹は、実は富山発祥の薬じゃないことになる。ほほう。

 

「磯部磯兵衛物語」風に伝説を紹介します

では、なぜ、反魂丹は有名になったか。いくつかの伝説が残されている。もっとも有名なのは次の話だ。

ある日、江戸城内でひとりの諸侯が腹痛に襲われた。居合わせた富山二代藩主・前田正甫が反魂丹を差し出し与えると、たちまち回復。薬の劇的効果に驚いた諸侯と、その周囲は、前田藩主に「その薬はなんですか?」と訊ねた。この出来事がきっかけで、反魂丹はブレイクし、全国各地で売られるようになった。「廣貫堂資料館」に展示されている、当時の様子を表した人形を元に(※1)、「磯部磯兵衛物語」風に再現すると、こんな感じだ。

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諸侯「あいたたた・・・」

前田「いかがしたでござるか」

諸侯「は、腹が猛烈に痛いでござる」

ヤジ馬諸侯たち「大丈夫でござるか?」「医師を呼べ!医師を!」

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諸侯「医師は不要で候。拙者、武士だからこれくらい大丈夫でござる(あ、でもこれまぢでヤバイやつかも。死にそうでござる)」

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前田「こちらを飲まれよ。我が藩に伝わる妙薬にございまする」

諸侯「かなじけない。ゴクン。あれ、これめっちゃ効くね。なんて薬?」

ヤジ馬諸侯「気になるゥ~」

 

・・・たぶん、こんなかんじ。ぼくはこの伝説を知った時、正直、「本当かな~。ちょっとステマくさいなぁ~」とちょっと思った。真実はわからない。

 

 「反魂丹役所」というおもしろネーミング

ところで、前田藩主はなぜ、反魂丹を持っていたのか。これにも逸話が残っている(※2)。

ある時、前田藩主が腹痛になった。医師が薬を処方したが効果がない。そこで、近習日比野小衛兵という人物が手持ちの薬を与えると、たちまち全快した。その薬こそが反魂丹。小衛兵がかつて長崎に出張中に腹痛を起こした際に、ひとりの老人からもらった薬だった。前田藩主は、その絶大な効果に驚き、このような良い薬はもっと広めるべきだとして製法を説明させた。

伝書によって、逸話の内容は微妙に違うが、前田藩主の命で反魂丹が広まったことは、だいたい共通しているようだ。江戸時代の文書には、富山の売薬人を「反魂丹もの」、売薬人を管理していた藩の役所を「反魂丹役所」、得意先の商売範囲を「反魂丹場所」と記す場合が多くあるという(※3)。猫も杓子も反魂丹。時代がいまなら、富山大学反魂丹学部とかあってもおかしくなさそう。

 

昔の反魂丹は22種類の生薬だが、現代は6成分に絞られている

反魂丹と一口にいっても、その成分は同一ではない。反魂丹は、富山以外にも存在した。先述の「富山の薬―反魂丹」によれば、富山の反魂丹の特徴は、龍脳(リュウノウジュという樹から作った結晶で、意識をはっきりさせる効果がある※4)を使っていたことが特徴だったそうだ。

現在流通する「胃腸反魂丹」は、江戸期に使われていたものとは異なる。古書「富山反魂丹旧記」によると、古くは龍脳、麝香(ジャコウ鹿からとった分泌物)といった高級生薬を含め、22種類の生薬が使われていたようだが、今日の「胃腸反魂丹」は6成分からなっている。龍脳も麝香も使われていない。

興味がある人は、試してほしい。近所のドラッグストアでは、入手しにくいかもしれない。アマゾンで購入できる。磯部磯兵衛物語を知らない人は、ついでにこちらもご購入されたい。

磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~ 13 (ジャンプコミックス)

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※1 撮影OKとのことだったので撮影

※2「富山の薬―反魂丹」より。本記事の記述の多くは本書による。面白い本なので、富山に行った際はぜひご購入を。たしか1500円くらい。

※3反魂丹の名前の由来については、「富山の薬―反魂丹」において、もともとは中国の反魂香から来た名で、漢の武官が李夫人をこの薬でよみがえらせた話があり、この香にちなんで付けられた薬名といわれる。

※4リュウノウジュについて

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