一般向けにnoteに書いた「コロナうがい祭りの前に知っておきたい、うがい成分の3種類」の参考情報を載せておきます。ここで書くのはあくまでも資格者向けです。一般の方が読んでも誤解・誤読する可能性があるので(なるべくそうしないように気をつけてはいますが)ご注意ください。今後は、はてなブログとnoteで、このような使い分けをしようかなあ・・・とちょっと考えております(けどどうするかはわからない)。
まず、ポビドンヨードの新型コロナへの不活化効果について最近の研究では、7月に報告があります。それによるとうがい、のどスプレー共にSARS-CoV-2 を30秒以内に不活化しとしています。ポビドンヨードが新型コロナに有効であることは以前から言われていたとわたしは記憶しているけれど、本報はそれを改めて裏付けた結果と言えそうです。
ポビドンヨードにコロナの不活化効果があることは確かでしょう。しかし、人間の生活や行動において、それが予防につながるのか、はたまた重症化につながるのかは、別問題です。これは医療従事者にとっては当たり前のことですが、一般の感覚とはギャップがあるように感じます。つまり、不活化効果があるなら、予防効果があって当然ではないかと、多くの非医療従事者は考えるのではないでしょうか。それはある意味正しく、今回の大阪の報告も(研究のデザインについては非常に手厳しく非難されていますが)、限定された条件下であれば、非常に”可能性の研究”としては面白いと感じます。ただ、政策への転用は誤ったのではないかとわたしは感じています。
ところで、ポビドンヨードがコロナ予防に有効かどうかを、取り急ぎ検証する方法としては、ポビドンうがいがインフルエンザを予防するかを見るのは一つの手だと思いました。調べたところ、水うがいとポビドンうがいでインフルエンザ様症状の発症に有意な差はなかったとする報告がありました。これは京都大学の例の研究と同じデータセットを使ったものです。
Can We Prevent Influenza-like Illnesses by Gar- gling?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/46/18/46_18_1623/_pdf/-char/en
インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスでは、ウイルスとしての挙動が異なるでしょうし、データもそれほどありませんので、軽々なことは言えませんが、やはり不活化効果があることと予防効果があることは、簡単には結びつけられない様に感じました。
現実的には、ある条件・環境下で、有効だということだと思います。
noteの記事に掲載した3つの成分の表について補足します。セチルピリジウムは医療用のIFにも細菌についての言及しかありませんが、別の研究(COI有)で細菌には効果が認められたがインフルエンザウイルスには無効だったとする報告がありますが、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi/92/5/92_670/_pdf/-char/ja
その一方で、CPCが一部のウイルス(インフルを含む)に不活化効果が認められたとする報告もちらほらあり、やや曖昧な状況になっています。
動画の着色については、シャツは1分ほどのちに水道水で洗ったところ、アズレンスルホン酸は速やかに落ちました。よかったです。イソジンはやや残理ましたがこれもかなり落ちました。
色の動画をアップした時、コロナに限らず普段はどうやって使い分ければいいですか?との質問をいただきました。普段使いのうがいであれば、水うがいで良いと個人的には思っています。しいて予防に使うのであれば、ポビドンかセチルピリジニウムになるわけですが、例えば後者は先述の通りウイルスへの不活化作用はやや曖昧な部分がありますので、インフルのシーズンにどちらかを選ぶならばポビドンが良いかもしれません。では、すでに喉が痛い時にはどうしたらいいか。一般的にはポビドンかアズレンかという話になりますが、感冒の咽頭痛に対する両者の比較試験は調べてもなかなか出てきません。アズレンについては、術後やガンの化学療法において使用する論文がいくつかありますが、ポビドンとの比較はなかなか・・・と思ったら、日本の報告を一つ見つけました。扁桃摘出手術後の比較です。
フルは読めないのですが、痛みの評価においてはアズレンの方が優れていたという結果だったようです。まあ、当たり前といえば当たり前の気もしますが、風邪においても痛みがあるようならアズレンの方が良いのではないかという気が個人的にはします。風邪は自然軽快しますので、いかに症状を軽減させるかがポイントです。その点、感染発症後に殺菌・不活化するポビドンよりも、アズレンで痛みを抑えつつ、なるべく早く風邪を治すのが良いのではないでしょうか。
続いて、以下のデメリットの補足情報です。
①PCR検査で偽陰性になる可能性
②喉の環境を変化させて、風邪を含めた感染症にかかりやすくなる可能性
③甲状腺機能障害の患者さんが使った場合に影響が出る可能性
④妊婦さんが使った場合に影響が出る可能性
⑤供給が追いつかず、医療現場など本来必要な場面で使えなくなる可能性
⑥イソジン欲しさに必要のない受診が増える可能性
⑦不適切な使用により誤飲などの事故が起きる可能性
①は状況次第ということにはなりますが、可能性としては留意したいところ。
②は京都大学のうがい研究が示唆するものとして挙げられます。こちらも有名なので割愛します。
③これは添付文書通りです。市販薬においては、うがい薬は注意事項はないものの、のどスプレーは体内摂取があるためか妊婦は禁忌となっています。
④については、うがい薬であっても注意が必要とされます。過去の研究では、ポビドンヨード4mを60mLで薄めたうがい(市販薬の使い方と同じです)でも1日3回使用した場合は4mgほどの体内摂取となり、妊婦・授乳婦の1日上限基準値2mgを超えます。一時的に摂取量が基準を超えてもおそらく問題はないと言えますが、予防目的で漫然と使用するとなると話は別です。かの国立生育医療研究センターが8月7日に妊婦・授乳婦はコロナ予防としての日常的な使用は避けるようにアナウンスを出したインパクトは大きいと言えます。
推定摂取量4mgの根拠となる文献はこちらです。
Povidone Iodine-induced Overt Hypothyroidism in a Patient with Prolonged Habitual Gargling: Urinary Excretion of Iodine after Gargling in Normal Subjects
https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/46/7/46_7_391/_pdf/-char/en
⑤については例えば MeijiSeikaファルマやムンディから医療用の出荷調整のアナウンスがきています。ムンディのイソジンの出荷調整解除は10月頃だそうです。
⑥はあくまで匿名のSNSでの話にはなりますが、薬剤師のアカウントから複数の報告が上がっています。これはひどい・・・。
日記です。どのように対処するべきか悩みます。 pic.twitter.com/VxrHtZd8eQ
— おとも@薬剤師×イラスト (@otomommo) 2020年8月5日
???「コロナにはイソジンが、、」
— 薬剤師系ゴリラ(薬ゴリ)🦍 (@Dgs_yakugori) 2020年8月4日
👴🧓👩🧒『イソジン!うがい薬!!』
【秒で完売】
〜その後〜
🧓「市販の売り切れたから、先生にもらったわ(処方箋)」
🦍「は、はい😅」
🧓「でも先生がうがい薬だけは出せないって痛み止めもくれた、いらんけど」
🦍「は、、はい😅」
はい、医療費の無駄😇😇😇
⑦についてもSNS上で上がっています。患者や消費者は、医療従事者が驚く方法で薬を用いることがあります。特にこうした非常時は要注意です。福島原発が起きた時は、ヨウ素摂取のためにうがい薬を飲むという懸念が広がり、注意を呼びかけるアナウンスが報じられました。
「うがい薬を絶対に飲まないで」、ネットのデマに注意: 日本経済新聞
以上となります。あとこれは全くの余談ですけど、久しぶりにイソジンを使いまして、その色の濃さに驚きました。うがいして吐いた後で洗面台がめっちゃ汚れましたね。 その際にたまたま洗面所のコップではなく、普段紅茶などを飲んでいるお気に入りのカップを使ったのですが、洗っても匂いが取れません。水を入れて飲んだら、なんだかイソジンの味がします。陶器の目に入ってしまったのでしょうか・・・悲しいです・・・。