病院でよく処方される咳止め薬の「メジコン」が、市販薬として、ひっそりと発売されました。ニュースリリースは出されていませんが、シオノギヘルスケアのオンラインショップで「メジコンせき止め錠Pro」として発売されています。また、総合感冒薬の「パイロンPL顆粒Pro」も発売されました。どちらも、医療用と同量成分の薬となります。
今回は、「メジコンせき止め錠Pro」について説明します。
メジコンせき止めProは、デキストロメトルファンという成分の薬です。病院ではメジコンという名前でよく処方されます。デキストロメトルファンは延髄にある咳中枢と呼ばれる場所に作用し、咳を止める働きがあります。
市販の他の咳止めとは何が違うのでしょうか。
これと似た働きをする成分に、ジヒドロコデインというものがあります。そして、市販薬の咳止め成分のほとんどは、デキストロメトルファンかジヒドロコデインです。
もっとも、実際に商品の棚を見てみると、市販薬の咳止め薬と総合風邪薬に使われている咳止め成分は、ジヒドロコデインのほうが圧倒的に多く、デキストロメトルファンを使用しているものは少数です。ただ、デキストロメトルファンのほうが、ジヒドロコデインよりも一般的には副作用が少なく安全であると考えられています。実際、ジヒドロコデインは、12歳未満の小児には使うことが禁止されています。
デキストロメトルファンは、今までも市販薬にありました。しかし、摂取量が医療用と比べるとやや少なく、例えば「新コンタックせき止めW」は1日の摂取量が60mgでした。これに対して、今回発売した市販薬のメジコンは、1日90mgで、これは病院で処方されるのと同程度の量です。そのため、いままで、市販薬にはなかったタイプの製品だと言えます。
箱に入っている説明書もユニークです。ふつう、市販薬の説明書は、使用上の注意点や副作用でびっしり埋められているものなのですが、メジコンの説明書の半分(裏面)は、咳エチケットや予防など、薬とは関係のない生活アドバイスなのです。これはとても珍しい作りです。
一方、気になることもあります。それはメジコンの精神系への影響です。7月16日、私がメジコンが市販薬として発売されることをツイートしたところ、翌日には188件の「いいね」がつきました。このなかで、私のスマートフォンで表示された最新の75件のいいね(75件までしか表示されませんでした)のアカウントのうち、明らかにメジコンを咳止め以外の目的、つまり精神作用を期待しているであろうアカウントが17件(約2割)あったのです。
咳止め薬メジコンが市販薬で発売されます(第2類)。箱に非麻薬性とあえて記載(シオノギは近年この路線です)。また、風邪薬のPL顆粒も医療用と同量製品が発売(現行品は80%量)。
— くすりのkuriedits (@kuriedits) July 16, 2021
前者は既に議論が出てる薬。雑誌広告が解禁されてました。公式サイトのリリースはまだです。いつもシオノギは直前なので。 pic.twitter.com/etRNQFgcy5
これは、薬剤師から見れば、当然の結果です。薬剤師の小嶋さんのツイートでは、米国のOTC業界団体が作成したデキストロメトルファンの乱用防止の動画が紹介されていました。
米国のOTC業界団体作成のデキストロメトルファン乱用に取り組む姿勢を示した動画
— 小嶋 慎二@アポネット (@kojima_aponet) July 1, 2021
日本の業界団体も市販薬の乱用の存在を認めて、国民に警鐘を鳴らすべきだと思う
【CHPA 2021.07.01】
CHPA Takes Action to Combat DXM Abuse https://t.co/KebRJFiMyO
これほど、扱いを慎重にすべき薬であるという視点に立つならば、今回発売された「メジコンせき止め錠Pro」の販売方法には、気になる点がいくつかあります。
1つは、副作用の程度を示すリスク区分が「第二類医薬品」であるということです。先述のジヒドロコデインは、特別な注意が必要な「指定第二類医薬品」という区分であり、さらに、依存性があることから、厚労省は「ひとり1点のみ」といった販売を制限する通知を出しています。ところが、同じように依存性が知られているデキストロメトルファンについては、「ひとり1点のみ」という制限の通知のない、そして比較的規制のゆるい「第二類医薬品」なのです。
もう1つは、シオノギヘルスケアのオンラインサイトでの販売方法です。サイトをみる限り、メジコンは1回で12点まで購入できる仕様になっています。他の「新セデス」や「パイロンPL顆粒Pro」といった薬は、1回で5点までとなっていることを考えると、ずいぶんと買いやすい印象です。実際は、サイト運営側のチェックが働き、12点も購入できないのかもしれませんが、今まで見てきたようなこの成分の特殊性や、国内外の使用実態を考えれば、12点まで選択できる仕様にしていること自体が驚きです。
拙著『その病気、市販薬で治せます』では、こうした依存性のある市販薬の問題や、またそれが売られているネットの課題点などについて言及していますが、まだまだ市販薬業界内でさえ、関心は薄いのかもしれません。