『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

「安全」幻想で広まったメジコンProの末路【2023/11/20~11/24のニュース】

歌舞伎町の「トー横」は社会問題として広く認知されています。そこで市販薬を使った犯罪が明るみにできました。今週22日、無許可で市販薬を販売したとして警視庁は男女4名を逮捕したと発表しました。朝日新聞から引きます。

少年育成課によると高橋容疑者は7月26日、新宿区歌舞伎町の「シネシティ広場」周辺で、男子高校生(当時18)に医薬品の販売業の許可を受けずに医薬品のせき止め薬を販売した疑いがある。他の3人は共謀して9月21日に無職少女(当時16)に売った疑い。シネシティ広場周辺は「トー横」と呼ばれる。

この記事で無許可販売されていたという市販薬の写真が掲載されています。「メジコンPro」という咳止めです。発売したのは2年前。皮肉なことに、当時は、若者の市販薬の濫用を防ぐため、という目的がありました。それがいまや、トー横キッズの濫用の代名詞になっています。

メジコンは病院でも処方される薬です。医師・薬剤師の指示通りに使用していれば安全性の高い薬なので、ご安心ください。しかし、これが市販薬として自由に販売されることで、濫用という新たな問題が生まれました。

予想外の展開だったわけではありません。私が2年前にメジコンProの発売情報をツイッターでつぶやいたとき、すぐにオーバードーズの常習者とみられる複数のアカウントから嬉々とする反応があり、多数RTされました。それだけ、依存のリスクが知られた薬でした。

https://drugstore.hatenablog.com/entry/2021/08/15/121000

上記のブログ記事をお読みいただければわかるとおり、この薬の成分はもともと依存性が海外で問題になっている成分でした。しかし、日本では、「第二類医薬品」という極めて規制の緩い販売区分でメジコンを発売してしまいました。市販薬の販売業に携わっていた私は、これはまずいぞと思い、自主規制として販売数量の制限を検討しました。もっとも当時は、ほとんど売れることのない商品でしたが。

行政レベルでも、濫用の危険性は把握していたはずです。2022年7月に開かれた市販薬の濫用を防ぐための有識者会議「令和4年度第7回医薬品等安全対策部会安全対策調査会」では、参考人から次の発言が出ています

「あと、2つ大事な成分があって、1つは先ほど言ったデキストロメトルファンです。これはアメリカでのOTC薬濫用の二大やばい物質がデキストロメトルファンとコデインなのです。」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27644.html

このデキストロメトルファンがメジコンのことです。この会議はコデインなどの他の依存成分の規制を強化するということで、デキストロメトルファンの規制強化は見送られました。日本国内で薬物汚染が広がっている十分なデータが、まだなかったからかもしれません。もっとも、翌年2023年5月の別の会議ではメジコンによる国内汚染が広がっていることを示すデータが取り上げられていますから、当時から濫用の実態はすでに進んでいたといえます。

厚労省は依存の危険性も、濫用されている実態も、ある程度は承知していたと思います。しかし、公的で客観的なデータがないので動かないという保守的な態度だったといえるでしょう。でも、依存性のある咳止め成分の販売規制を強化することは、そんなに後回しにしていいことなのでしょうか。

実は、メジコンのデキストロメトルファンは、ここ数年来、日本の市販薬で使用されることが増えていた成分です。咳止めの代表的な成分だったコデインが、2019年に安全性の配慮から12歳未満は服用禁止となったことがきっかけです。大半のファミリー向けの風邪薬にはコデインが配合されていました。しかし、コデインが12歳未満禁止となると、それを含む風邪薬は家族で飲むことができません。そのため、コデインをデキストロメトルファンに切り替えるメーカーが増えたのです。

デキストロメトルファンは、安全な咳止め成分というかりそめの地位を得ました。2021年にメジコンProが発売された時、製造販売元のシオノギヘルスケアは、こんな言葉をプレスリリースに載せていました。

「鎮咳去痰薬に含まれるコデインやジヒドロコデインをはじめ、一部の有効成分を含む市販薬は、厚生労働大臣によ り「濫用等のおそれのある医薬品」に指定されています。 また近年、主に若者間で市販薬の濫用が増加している背景もあることから、適正使用に向け非麻薬性成分への置き換えを推進すべく、当社初の「せき」の効能に特化した 新製品「メジコンせき止め錠 Pro」を発売しました。」

https://www.shionogi-hc.co.jp/content/dam/shc/jp/news/2021/08/20210820.pdf

市販薬の濫用を避けるためにこの新商品を発売したのに、わずか2年で、濫用の代名詞になってしまいました。当時、このリリースの文言を読んだときは、私はメジコンの成分も乱用に使われるから、気持ちわかるけど、勇み足な表現だなあと思ったことがあります。間違いではなかったと思います。ただ、現行の販売規制が、あまりに緩すぎました。

ほとんど規制のない状態で発売したメジコンProは、あっという間に社会問題の渦中の存在となりました。

私たちは、ここから何を学べるでしょうか?

それとも何も学ぶべきことはないと考え、こうした市販薬販売、市販薬行政を続けるのでしょうか?

それって、社会全体にとって、いいことなんでしょうか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

市販薬にご興味を持っていただけたらこちらをお手に取っていただけると嬉しいです。

 

さて、その他のニュースも紹介しておきます。今週はさまざまなニュースがありました。私自身が来年の春まではかなり忙しい状態なので、一つ一つブログ記事にできない口惜しさがあります。列挙だけしておきます。

●スライム目薬、再び。11月18日からスライム目薬が限定発売しています。初めてこれが発売された時の、ブレイク感たや、すごいものがありました。大人気で、欠品に次ぐ欠品でした。

https://jp.rohto.com/zi/campaign/

●エスエス製薬がEVEと休息研究家とコラボ。最近、休息という価値観をプッシュしている気がします。

https://www.ssp.co.jp/eve/7-types-of-rest/result2.html

●日経新聞「市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件」。スクープとしていますが、中身は厚労省の検討会で話し合われていた内容が順当に決まったものですから、スクープではないと思います。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA164MG0W3A111C2000000/