『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

ストロングランク製品の新発売と、セルフケアの変化【2024/4/8~4/12】のニュース】

大正製薬が湿疹薬「クリニラボ メディロイドVS軟膏」を4/18発売します。注目はその成分。市販薬としては最も高いステロイドランクの「ベタメタゾン吉草酸エステル」を用いています。 今後日本でセルフケアが進むと、ストロングランクの製品は少しずつ増えると思いますが、同時に適正使用も課題になるでしょう。

今日はこのステロイドとランクについて簡単に解説します。

https://www.taisho.co.jp/company/news/2024/20240411001520.html

 

ステロイドの塗り薬は種類が豊富です。薬効の強さによって5段階に分かれています。一番強いのが「ストロンゲスト」で、一番弱いのが「ウィーク」です。下から2番目に弱いのが「ミディアム」で、3番目のまんなかが「ストロング」です。

このうち市販薬で販売されているのは、弱いほうから3つの「ウィーク」「ミディアム」「ストロング」。特に製品の種類が多いのは、圧倒的に「ミディアム」の薬です。ウィークもストロングも、それほど数はありません。

この偏りについて一番考えられる理由は、”ミディアムランクが、セルフケアでは一番使い勝手が良いから”です。

ウィークはその名の通り、効果も弱めです。せっかく購入したのに効き目が悪いと、「この薬は効かなかったからもう買わない」となってしまうでしょう。

ストロングは効果がやや強くなります。そのぶん、使い方に注意が必要になります。

 

これらに対して、ミディアムは、セルフケアには”ちょうどいい”存在です。セルフケアの皮膚トラブルの大半は、軽い湿疹や虫刺されなどです。これらの症状であればミディアムで十分。また、ミディアムは安全性も比較的高く、小さな子供にも使われます。「1歳から使えます」というポップを貼っている店もありますし、メーカーの製品サイトでは「生後6ヶ月以上を目安」と記載している場合もあります(「ムヒEX」参照)。病院で子供の湿疹に「ロコイド」という薬を処方された経験はないでしょうか。このロコイドがミディアムランクのステロイドです。

ミディアムランクの市販薬は、「日常のちょっとした皮膚の湿疹には十分に効いて、しかも小さな子供でも使いやすい」存在です。つまり、購入者のボリュームゾーンも一番大きいと言えます。

 

では、今回発売した「メディロイドVS軟膏」のようなストロングランクはどのような位置づけでしょう。有名な製品は「リンデロン」「フルコートf」「ベトネベート」です。この3ブランドは、市販薬の”ストロング3銃士”と言っても過言ではありません(と私が勝手に言っているだけですが)。圧倒的知名度で、どのドラッグストアにも大抵おいてあります。リンデロンは病院でもよく処方されるブランドです。

ストロングランクはミディアムよりも効果が高いのが特徴です。その反面、使い方は少し注意が必要です。例えば、ストロングのステロイドは基本的に顔には使いません。ステロイドは体の部位によって吸収率が異なります。一般的には、体の腕と、顔の頬では、吸収率が13倍異なるとされています。そのため、ストロングランクは吸収率の高い顔には使わないのが基本です(「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」)。もちろん、実際には病院ではストロング以上のステロイドは顔に使われるのですが、それは医師が診察することで安全が保たれているわけです。このように、ストロングならではの注意点があることは知っておきたいところです。

 

ストロングランクのステロイドは、なかなか新製品が発売しません。それだけに、今回、市販薬業界のガリバーこと大正製薬が発売したことはインパクトがありました。

前述のミディアムランクは、いまのところ”一番使い勝手の良い”ランクです。しかし、これは今の日本人のセルフケアにとって一番使い勝手が良いということです。大は小を兼ねるのですから、ミディアムよりも効果の高いストロングを積極的に使えるようになった方が良いという意見もあるでしょう。従来、病院へ行ってストロングのステロイドで治療してもらっていた人たちからすれば、市販薬でストロングランクが購入できることは、便利という点では間違いありません。ストロングランクも短期間に限って適切に使用すれば、間違いなく便利な薬です。

ただし、安全に使うためのステロイドに対する基本的な理解が必要です。一人で解決しようとせずに、薬剤師や登録販売者といった市販薬に詳しい人たちに相談する気持ちを持つことも大事です。

ストロングランクの製品は今後、増えるかもしれません。ひょっとすると10年後には、ステロイドランクの製品が、ミディアムと同じくらいのボリュームゾーンになるかもしれません。しかし、これが”使い勝手の良い”ものになるかどうかは、これからの一人ひとりのセルフケアと、ヘルスケアリテラシーに左右されるように思います。