『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

風邪薬、飲んだら乗るな、飲むなら休め【2024/5/13~5/17のニュース】

今週14日、痛ましい事故が起きました。首都高速道路池袋線で、大型トラックが渋滞中の車列に追突して、衝突された3人が亡くなりました。逮捕されたトラック運転手の男性は、前日から体調不良で「風邪薬を飲んでいた」と供述しているそうです。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/327789

多くの風邪薬には眠気の出る成分が入ってます。薬の説明書に「服用後、乗物又は機械類の運転操作をしないでください」と書かれているのは、このためです。

事故と風邪薬の因果関係は不明です。風邪薬を飲むほどの体調不良であれば、運転は集中力を欠いていたはずです。事故が起きてもおかしくありません。風邪薬による”眠気”の副作用が拍車をかけた可能性もあります。

風邪薬、飲んだら乗るな、飲むなら休め。これが原則です。

体調が悪ければ仕事を休むのが最善手です。ただし、現実は、”だったらいいな”の理想論でしょう。体調がすこぶる悪ければ休みます。しかし、ちょっと体調が悪いくらいなら、多くの人は出勤するはずです。

じゃあ、どうするか。

そこで考えておくとよい2つのポイントを紹介します。

1つは、副作用の”眠気を侮るな”です。”眠気”というと、「自分は風邪薬を飲んでも眠気は出ないから大丈夫」「眠気くらいなら支障はない」と、甘く考えてしまうかもしれません。

しかし、風邪薬の副作用の本質は「脳の機能の低下」であることがわかっています。薬効成分が脳に移行することで、脳の機能が一時的に低下します。その結果、集中力の欠如、判断力の低下、眠気などが起きます。厄介なのは、自覚症状がない場合です。一瞬の判断力が人命を左右する職業ドライバーなどにとっては、文字どおり死活問題になります。

このような自覚症状に乏しい生体機能の低下を、薬学の分野では「インペアード・パフォーマンス」と呼びます。非常に古い言葉で、最近はやや使われなくなっている印象ですが、「眠気」という一言では済まされないのが、風邪薬の副作用というわけです。

ではどうするか。

そこで知っておきたい2つめのポイントが、眠くなる成分が入っていない風邪薬を選ぶということです。風邪薬で眠気の原因となる代表的なものは、「抗ヒスタミン」と呼ばれる成分です。体内のアレルギー反応を抑えることで、くしゃみ・鼻水を止めてくれます。花粉症の治療薬としても広く使われているこの成分は、副作用として眠気が出ることが知られています。

そのため、抗ヒスタミン成分は、新しい薬が開発されるたびに、症状を抑える効果の高さと、眠気の副作用の少なさが、評価のポイントとなります。昔の薬は眠気が出やすく、新しい薬は眠気が出にくく改良されているのが特徴です。

しかし、風邪薬に使われる抗ヒスタミン成分は、古いタイプのものです(そもそも風邪の鼻水には、抗ヒスタミン成分はあまり効かないと考えられており、ただしその中では、古いタイプの抗ヒスタミン成分がやや効果がありそうだとされています)。

ほとんどの市販の風邪薬に使われている抗ヒスタミン成分は「クロルフェニラミン」というものです。また、抗ヒスタミン以外でも、「デキストロメトルファン」といった咳止め成分でも、眠気の注意書きが書かれています。これらの成分が配合されていない風邪薬は、脳の注意力の低下を回避できる可能性が高いでしょう。

と言っても、難しいですよね、自力で見つけるのは。一苦労だと思います。 これは日本の市販薬市場の問題点、そしてヘルスリテラシーの課題だと私は考えています。 こうした状況の改善を希望する薬剤師は多いですが、社会全体が変わるには時間がかかります。

とりあえず困ったら、薬剤師または登録販売者にご相談ください。