『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

防風通聖散(ナイシトール)がうんちの量を増やし、脂肪の吸収を抑えるのは本当か?②

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うんちは増えるが、いいことばかりではないナイシトール

昨日の続きです。ナイシトールこと防風通聖散を飲むと、うんちが増えて、うんちの中の脂肪の量も増えることを示すネズミの研究結果が、海外の専門誌の電子版に掲載されました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

メーカーのサイトによると、

1.防風通聖散は糞便量を増やす

2.防風通聖散は便中への脂質およびコレステロールの排泄量を増やす

ということのようですが、これはどこまで信じていいのでしょうか?

www.kobayashi.co.jp

まず「1.防風通聖散は糞便量を増やす」です。この実験では、マウスに防風通聖散入りの餌と、防風通聖散の入っていない餌を与えて体重を比べたところ、防風通聖散入りのほうがうんちが増えました。

防風通聖散でトイレが近くなったという声は、使用者からよく聞きます。使われている生薬成分を見ても、その効果はまちがいないでしょう。うんちの量を増やすことはたしかだと思います。

また「2.防風通聖散は便中への脂質およびコレステロールの排泄量を増やす」というのもおそらく本当なのでしょう。ただ、メーカー(小林製薬)のサイトには「コレステロール排出量が最大159%にUP!」と書いてあるものの、これだけではなんともいえません(論文中ではFig.5だが実数がよくわかりませんでした)。

そもそも、それをいっちゃあおしまいよではありますが、マウスを使ったものなので、人間に当てはめることはできません。また、実験のマウスは肥満のマウスであり、与えた餌も高脂肪食であることは注意しておきたいと思います。肥満のマウス、高脂肪食を使うことで、実験結果の体重に差が出やすくしています。それ自体は別に悪いことでもないのですけど、私の経験では病院とはちがってドラッグストアで防風通聖散を買う人の中で、見るからに肥満体型の人はほとんどいません。むしろ見た目は中肉中背くらいの人の方が圧倒的です。そのような人たちが、この薬を飲んでどれだけの効果が得られるのか、ある程度差し引いた考えが必要だと思います。 

私は動物実験の論文の読み方にはあいにく精通していないので、 どなたかお詳しい人がいましたら是非、論文の読み解きをお願い致します。

まとめますと、たしかにうんちも増やしますし、コレステロールを出す量も増えるのでしょうけど、人への効果はよくわかりません。なにより、防風通聖散は長く使っていると副作用が起きる漢方薬としてわりかし有名なので、飲まなくていいならそれにこしたことはありません。

ついでにもう一つ補足情報です。この専門誌の同じ号に、防風通聖散に関する別の研究が掲載されていました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

これによると、防風通聖散は「OATP2B1」と呼ばれる小腸の栄養吸収する装置(トランスポーター)を妨害する働きが、他の漢方薬よりも強いそうです。

「OATP2B1」とは「OATPs」と総称される装置の一つでして、花粉症薬のアレグラなどいくつかの薬は「OATP2B1」によって細胞に吸収されることがわかっています。防風通聖散はOATP2B1は吸収装置の働きを抑えますので、一緒に飲んだ薬の効果が弱くなってしまうかもしれないということです(※)。防風通聖散が脂肪の吸収を抑えるなら、他の栄養や薬の成分の吸収も抑えることがあるかもしれないということです。

ダイエット薬と認知されているお薬ひとつとっても、けっこう色々考えるべきことがあるわけです。不安や疑問、聞きたいことがあれば、どうぞドラッグストアまたは薬局の薬剤師に声をかけてみてください。そのために薬剤師はドラッグストアに雇われ、そこにいるんです。

欲を言えば、漢方薬をたくさん置いている漢方薬局にご相談を。めちゃくちゃ詳しいので色々教えてくれるはずです。

参考情報

※右記論文ではOATP2B1とフェキソフェナジンへの影響の記載はないが、フェキソフェナジンは代表例として挙げられると思われるので本文で記述した。この論文では防風通聖散がOATP2B1を阻害するとある一方で、アトロバスタチンの濃度は上げるとあり、これは防風通聖散が輩出系トランスポーターを阻害することにより吸収抑制<排出抑制の結果と思われるhttp://www.inm.u-toyama.ac.jp/jp/collabo/h23_download/report/23_7.pdf

この他、https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/138/3/138_17-00168/_pdfなどが興味深い