『家庭の薬学』

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ドラッグストアで働きたい人、ドラッグストアで働いている人が知っておくべき2つの話

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経産省とドラッグストア協会が未来を語る

このブログで以前、ドラッグストアやコンビニ、スーパーなどの無人レジ化が進んでいることを紹介しました。その続報です。

専門誌『流通テクノロジー』2018年7月号に、無人レジ化をけん引する経済産業省の担当者、林揚哲さん(商務情報政策局 消費・流通政策課課長)のインタビューと、日本チェーンドラッグストア協会の宗像守さん(当時総務総長、今年7月逝去)の寄稿が掲載されていました。日本の小売りの未来を想像する上で、どちらも大変興味深い内容です。2つの話の要点をまとめてみました。詳細は雑誌をご覧ください。

オールジャパンで取り組まないと衰退産業になる

まず、経産省で電子タグを推進している林さんの話からまとめます。

・2年前から現職。小売業界の現状を知り「これほど儲かりにくい商売があったのか」と感じた。営業利益率は総じて1~2%程度。電子タグ導入による効率化が必要だと考えた

・利益がでにくい原因は「製販管」にある大きなムダ。小売でもとくに食品スーパー企業は日銭が入ってくるため、すぐに困ることはない。上場企業であれば株主を納得させるほどの成長はなんとかクリアできる。だから旧態依然としたビジネスモデルを脱しきれない

・電子タグを活用すれば、レジ・検品・卸売業務の高速化、消費期限管理の効率化による食品ロスの削減などが期待できる。小売業界で問題になっている人手不足、労務コストの上昇の問題も解決する

・電子タグ化の課題は導入コスト。ICタグの価格は約10円。1円以下にまで下がらないとすべての商品に取り付けるのは難しい

・CVS各社などが参加する実証実験の検討会に日本チェーンドラッグストア協会が参加したことを契機に、ドラッグストアでも電子化の話が進んだ

・リアル店舗が海外勢を含めたネット通販と戦っていくためには、無駄な部分を削るだけでなく、新しい価値を生み出していく必要がある。オールジャパンでやっていくのが理想。日本の小売業が営業利益率1~2%のままでは、衰退産業になってしまう。

アマゾンへの警戒心を隠さない

林さんの意見は非常に共感できるもので、私はそうそうと頷きながら読みました。一方、アマゾンなどの外資ネット企業を非常に警戒されていることを、ここまで隠さず公に表したのは驚きでした。

小売業の営業利益率1~2%という数字は、かなり低いと思います。ドラッグストアの場合は、利益率の高い調剤業務を抱える大手なら4~6%あります(※1)。アパレルではユニクロは9%。そしてザラを運営するインディテックスはなんと17%もあります。雑貨を扱う無印良品は11%、そして小売業界の大成功者、家具のニトリは16%です。モノを売るだけでなく、自社で商品を作る”製造小売企業”が高い営業利益を得ている傾向にあるとされます(※2)。営業利益率1~2%のままでは、たしかに”衰退産業”と呼ばれるのもむべなるかなです。

働き方改革と電子タグ導入は同時に進む

拙い個人的な経験から申せば、私は小売で働き始めた時に(入社した会社のせいかもしれませんけど)ずいぶん効率の悪い業界だなと感じました。小売業界の一般社員の給与水準が低く、長時間労働になっているのは、この運営効率の悪さが一因であると今も感じています。人件費が低く労働力を湯水のごとく使えるゆえに業務効率化に本腰を入れないという悪循環もあります。

幸い、最近は残業規制が厳しくなりました。現場は人件費抑制とは別の理由で業務効率化を迫られています。働き方改革と電子タグの推進は同時並行で進むでしょう。いずれにしろ、経産省による電子タグ化の取り組みは、現場で働く人たちにとっても追い風になると思います。

ドラッグストアは地域密着にならざるを得ない

さて、続いて、チェーンドラッグストア協会の宗像さんの寄稿の要点をまとめます。こちらも非常に興味深い内容です。

・ドラッグストア業界は2025年に10兆円産業化を目指しており、現在の2万店舗が3万店舗近くになると予想。そのため、1店舗当たりの商圏人口が減少する「狭小商圏化」となる

・狭小商圏化により、きめ細かな地域への健康・生活サービスと専門性の高い情報提供が可能になる。10兆円産業を実現するには「専門性の強化」と「効率的コスト運営」の両立が必要

・そこで電子タグを活用することで、単純労働は極力合理化して、専門性労働を強化する人件費配分にする

・できるだけ人件費を使わず商品を安く提供する戦略をとると、ドラッグストアでなくても成立する業態となり、一時的には成立しても継続的な成長は困難になる。現在の規制を満足させるためだけの専門家の配置ではなく、地域生活者の満足を高める専門性を作り上げる必要がある

・電子タグのコストはメーカーだけにコスト負担させるべきではなく、商品原価に転嫁して、消費者負担とすべきである

・ロードマップは①2018年度にドラッグストア業界内に研究プロジェクトを設置し、年度内に報告書にまとめ業界で次のステップについて決定する。結論によっては中止もあり得る②2019年度より導入・推進の実践と実証事件を行う③2023年度ごろから、ドラッグストア業界の製配販企業に啓発と普及に力を入れた活動を行う

伸びシロが十分のドラッグストア

宗像さんは電子タグ導入の目的は、専門性を高めるためだと強調されています。でも、ロードマップによると、5年後にようやく啓発活動を行うそうです。しかも、場合によっては電子タグ化そのものの中止もあり得ると書いていますから、正直、電子タグ化への本気度は疑わしいと感じます。

ただ、遅かれ早かれ、ドラッグストアは宗像さんが書かれたような、地域の健康・サービス、専門性の高い情報を提供する場所になると思います。生活者にとっては、今よりもっと身近な存在になるでしょう。アメリカの小売では売上トップ10のうち6位と7位がドラッグストアです。一方の日本では、ウエルシアの18位が最高(※3)。米国と日本では違うとはいえ、まだまだ日本のドラッグストアには伸びシロがありますし、いろんなことに挑戦できる可能性を秘めています。

小売業は最高にクールな職業になるかもしれない

というわけで、小売業という職場はおもしろいですし、薬学生は10年先を見据えて就職先にドラッグストアを選ぶのは大アリだと思います(ただし職場はちゃんと選びましょう)。ちなみに、今現在はドラッグストアは超好景気です。先日も「ドラッグストアの9割が最高益」という日経の報道がありました(※4)。誰がトップでも業績が伸びる幸せな時代です。

今回触れた電子タグだけでなく、AI、ECなどを駆使して小売業界はいま劇的に環境が変わっています。これ言われたら笑われちゃうかもですが、私、10年後には小売業は最高にクールな職業になっているんじゃないかと思っています(そのころ私がまだ小売業に身を置いているかはわかりませんが・・・)。

いまだって世界を席巻する”GAFA(ガーファ)”の一角は小売じゃないですか(A:アマゾン)。それくらい、いま小売業界はおもしろいと思うのです。

あー、小売に就職してよかったー。

ドラッグストアで働きたい方、ドラッグストアで働いている方の参考になりましたら幸いです。

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※1新たなビジネスモデルに求められる4つの要件 ドラッグストア業界の変革(後編)|SCIENCE SHIFT

※2「すごい物流戦略」(角井亮一著)掲載データより。各社2017年あるいは2018年のデータである。

※3 https://twitter.com/kuriedits/status/1029946949074468864

※4 ドラッグストアの9割が最高益 18年度、食品で集客 :日本経済新聞