新型コロナウイルスの第7波が本格化しています。これを書いている週末にも、抗原検査キットはかなり枯渇しているようで、様々なことが流動的な状態ですが、この1週間を振り返ります。
まず、私の店頭では、抗原検査キットの問い合わせが劇的に増えました。この状況で、わざわざ抗原検査キットを探しているくらいですから、情報に敏感なかたが多いのかなという印象だったのですが、話していて驚いたことがあります。それは、ほとんどの人が、「研究用」抗原検査キットと、「医療用」抗原検査キットの区別がついていないということです。
研究用の抗原検査キットは、新型コロナ対策として国が正式に認めていない、精度不明の検査キットのことです。感染しているにもかかわらず、「陰性」と出てしまうことの問題が指摘されてきました。
ドラッグストアの在庫は、まちまちです。医療用と研究用の両方を展開している(ただし医療用は欠品中)店もあれば、研究用は販売せず医療用だけという店もあります。各社方針もあるでしょうが、もうずっと研究用は扱っていない(入荷していない?)という店もあります。
そもそも、昨年9月、厚労省から日本チェーンドラッグストア協会に、研究用キットの扱いには注意するように事務連絡が入っており、これを受けて協会は加盟企業に向けて、両者の違いを明確にすることと、それができないのであれば販売を中止するべきといった要請をしています。
医療用と研究用、混同に留意~抗原検査キット販売で要請【日本チェーンドラッグストア協会】 | 薬剤師のエナジーチャージ 薬+読
また、読売新聞の今年5月報道では、厚労省から各自治体に、精度が不確かな研究用の販売の自粛を薬局に要請するように通知が出ています。
「厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染の有無を簡易に調べられる抗原検査キットについて、精度が不確かな「研究用」と称する製品の販売自粛を薬局などに要請するよう、自治体に文書で通知した。」
コロナ抗原検査キット、精度が不確かな「研究用」の販売自粛を…厚労省要請 : 読売新聞オンライン
このような状況になったきっかけは、昨年3月に研究用抗原検査キットの販売事業者2社(と抗体検査キット販売事業者3社)が消費者庁から行政指導を受けているためです。問題となったのは優良誤認の表記でした。
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_210326_01.pdf
研究用は国が認めた検査キットではなく、性能(精度)が確認されていません。この問題を受けて、市場には国が正式承認した、精度の確かな抗原検査キットが出回るようになりました。それが今、流通している、医療用の抗原検査キットです。これは「体外用診断薬」という特殊な扱いの薬で、処方箋を受け付けている薬局やドラッグストアで購入できます。また、購入時には、薬剤師から使い方の説明を受けたり、自分の名前などを記入することが求められます。通常の市販薬とは異なりますので、商品の棚には置いていません。薬剤師に声をかけて、調剤室から取り出してもらいます。ですから、もし店頭に抗原検査キットがあったら、それは研究用です。アマゾンなどネットで販売されているのも研究用です。
今、ネットでは研究用が非常に売れています。おそらく、ほとんどの人は、研究用と医療用の区別がつかないままに購入していることでしょう。
研究用の抗原検査キットには、「精度●%」などとして、その検査キットが精度が高いようなことを示す記載があります。しかし、これは、研究用に、あるいはその企業が独自におこなった試験です。自社に有利な条件を設定すれば精度は上げられるでしょう。ですから、実際に病気になった人に対する精度を保証するものではないのです。だからこそ、国が承認した医療用の検査キットが存在するのです。
もしからしたら、抗原検査キットの中にも、医療用と同じくらい役に立つ製品があるのかもしれません。でも、そうでないかもしれません。わからない、というところが厄介です。
「医療用検査キットがない状態では、検査しないよりはマシでしょう」
という意見もあるかもしれません。
医療用の抗原検査キットが全くない状態であれば、やむをえず研究用を使う、という選択肢もあるという見方です。ひょっとしたら、今後、検査キットが足りなくなり、研究用でも仕方ない、という話になる可能性もゼロではありません。しかし、現実は、医療用が入手できる状態で、研究用が売れている(売れていた)という点は問題でしょう。繰り返しますが、多くの人は、研究用と医療用の区別がついていないのです。私は今週、とある地域で3社のチェーンドラッグストアの薬局を見ましたが、そのうち2店舗で医療用の抗原検査キットを販売していました。探せばまだ入手できる状態であるにもかかわらず、同じ地域で、研究用キットが販売されていました。
精度はどうでしょうか。アマゾンではアマゾンではない企業が抗原検査キットを販売していますが、レビューを見ると、病院で陽性だったのに研究用キットは陰性だったという声が複数あります。「参考程度に」と考えていても、いざ、陰性であれば、それを信じたくなるのが人間心理です。
また、陽性だった場合はどうでしょう。その場合は、本当に陽性かもしれません。でも、正式なものではないので、結局は病院で検査を受ける必要があります。
研究用キットの販売方法にも、依然として問題があります。優良誤認で処分を受けた企業があるにもかかわらず、私のPCでググると、研究用のキットを厚労省が認可した、として販売しているサイトがすぐ出てきました。これはどういうことでしょう。
医療用の抗原検査キットの販売は、薬剤師が必要、ネット販売不可、という縛りがあることが、研究用が流通してしまう一因だと考えられます。個人的には、今は、もう少し規制緩和をすべきだと考えます。と、そんなことを思っていたら、政府が無料で配布するという話も出てきました。それならもう、薬剤師が必要とか、ネット販売不可という縛りも、あまり意味のないものになりつつあるのかもしれません。
最後に、医療用の抗原検査キットは、発症から2〜9日におこなうものです。発症初日に検査しても、精度は落ちて陰性と出る可能性が高くなりますのでご注意ください。以下、厚労省のアナウンスから引きます。
「承認後当初は、抗原検査キットで陽性の場合は確定診断となる一方、陰性の場合は確定診断のために再度PCR検査が必要でしたが、調査研究の結果、発症2日目から9日以内の有症状者については、抗原検査キットとPCR検査の結果の一致率が高いことが確認されました。 そのため、6月16日に「 SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン」の見直しを行い、鼻咽頭拭い液による検査は、発症2日目から9日目までの患者について、検査結果が陰性でも確定診断が行えるようになりました。」