『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

市販薬販売にデータ管理の時代が来そうです【2023/10/30~11/3のニュース】

今週は市販薬に関する行政の動きやルール変更が、たくさんありました。生活に直結するお話として紹介します。ちょっと長くなります。すみません。

 

フルナーゼが薬剤師不在時にも購入可能に

花粉症薬の「フルナーゼ」が、11月1日から指定第二類医薬品になりました。薬剤師による安全確認が必要でしたが、今後は薬剤師が不在でも購入できます。フルナーゼは鼻の穴に噴霧するタイプの薬で、ステロイドと呼ばれる効果の高い成分の薬です。もともとは病院で花粉症の患者さんに処方されていた薬でしたが、4年前に市販薬として登場。花粉症薬としては、市販薬で最も新しい成分です。来年の花粉症シーズンの強い味方になることは間違いないでしょう。

https://www.flunase.jp/

 

タリオンがネットで購入可能

花粉症薬の「タリオンAR」が12月に第一類医薬品になりそうです。10月30日の厚労省の安全対策調査会で俎上にのりました。議事録はまだ公表されていませんが、公表された調査資料によると、重篤な副作用の報告はありませんでした。おそらく12月10日から要指導医薬品から第一類医薬品になるものと思われます。これによってネットでの購入が可能となります。タリオンはベポタスチンという成分の花粉症薬で、元々病院で処方されていた(いる)薬でしたが、3年前に市販薬として発売しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35991.html

 

市販薬の販売ルールが大きく変わる

10月30日には厚労省で「第9回医薬品の販売制度に関する検討会」が開かれました。市販薬の販売ルールについて非常に大事な議論がおこなわれたようです。議事録は後日公開されます。ポイントだけ整理してお伝えします

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35843.html

・要指導医薬品のオンライン服薬指導

→ネット販売不可というのが現代に合ってないという話。条件付きでネット販売を認める方向に。これによって利用者が増えるため、市販後のデータの集積スピードや市場浸透スピードが上がりそうです。

・要指導医薬品のあり方

→要指導医薬品は一定期間を経ると第一類医薬品に移行するのが現行制度。しかし、この制度のせいで、スイッチ化が滞っているのではないかという話。おそらく緊急避妊薬のことを指しているのでしょう。医薬品の特性に応じて移行させないことも検討すべきという内容。現行制度の不便なところを調整・修正しようという流れです。

・デジタル技術を活用した医薬品販売業のあり方

→資格者が実店舗に不在でも、遠隔で管理ができるなら問題ないのではないかという話。個人的にはこれが最もインパクトのある話題でした。このブログでも何度か説明してきましたが、新宿駅に期間限定で設置された薬の販売機が布石となり、いよいよ規制緩和が進むようです。薬剤師や登録販売者がいないお店でも、ビデオなどを通じて管理ができれば、販売を許可しようという流れです。極論、通信設備が整っていれば、あらゆるお店で薬が買えるようになります。企業側は資格者の確保という経営の悩みから大きく解放されるでしょう。生活者にとって市販薬は今以上に身近なものになるに違いありません。法的責任の所在も議論されており、リアリティのあるところまで話が進んでいます。

・濫用の恐れのある医薬品について

→近年、若年者による市販薬依存が社会問題となっています。一部報道によると、20歳未満への規制を強化する議論されたようです。ここでは2つの私見を述べておきます。まず、20歳未満への規制ですが、年齢による規制は現状も存在します。例えばネットのアマゾンでは医薬品の販売ページに「■ 18歳以上かつ購入者本人である。」という表記があります。こうした緩い(形骸化しやすい)規制文言は、ネット業界ではありふれた手法であると同時に、それが守られているのかどうかは、企業のベールの向こう側にあるという問題がありました。ところが、今回の厚労省の資料では、形骸化させないための記載がなされていました。

購入者が 20 歳以上かどうかの確認を行う。対面又はオンラインの場合、 一見して明らかに判別できる場合は身分証等による確認を不要とする が、外見だけでは判別が難しい場合には、免許証や学生証等の写真付きの公的な身分証の提示を求めること等により年齢を確認することと する。対面又はオンラインによらない場合には、本人認証済みのアカウントや本人確認サービスを利用するなど、購入者が 20 歳以上かどうか確実に確認できる方法により確認することとする。

本人認証を必須とすると、購入のハードルは一気に上がることになります。若年者によるネットでの購入はかなり困難になるでしょう。もちろん、店頭での購入も難しくなるはずです。

今後の流れですが、前項の遠隔販売において、本人確認証の提示とセットで考えると良いと思います。リアル店舗で薬を買う場合に、ビデオで繋がった薬剤師などに免許証を提示する。その免許証の氏名から、販売者はデータベースにアクセスして過去の購入履歴を見る。こうすることで、濫用を防ぐことができます。もちろん、多くの店を渡り歩くという抜け道はありますが。しかし、客観的な記録があると、販売側にとってはコミュニケーションをしやすくなります。こうしたデータ認証は米国ではすでに導入されているようです。

市販薬が買いにくくなる、という指摘や不満はあるでしょう。しかし、自由に売買できる一般消費財と、健康に直結する医薬品は、分けて考えはいかがでしょうか。市販薬には、頻繁に購入することが本人の健康上のデメリットになる、という特性を踏まえた議論が必要だと思います。

今回の一連の議論を見ていると、規制緩和と規制強化の両輪で進んでいると言えます。この点について私は好意的です。