『家庭の薬学』

自分に合った市販薬を選びませんか?

「薬剤師に処方権を」運動のみかた【2023/6/5~6/9のニュース】

今週のニュースです。市販薬のことではないのですが、市販薬を考えるうえで知っておきたい、SNS上で話題の動きを1つご紹介します。

「薬剤師に処方権を」というキャンペーンです。今週、医師と薬剤師の有志のメンバーが立ち上げました。

彼らの発言から、私なりの理解でこの運動の主旨を一言で表すと、「患者や医療機関などの負担軽減のために、医師しかできないことの一部を、薬剤師もできるように権限を与えてほしい」です。「医師と同等に薬剤師も薬を処方できるようにしてほしい」という主張ではありません。ご注意を。SNS上では、すでに反対・賛成に分かれて、ときには強い言葉の応酬がおこなわれています。キャンペーンにご興味、ご関心のあるかたは、以下のリンク先をご覧ください。

キャンペーン · 薬剤師に処方権を 〜薬剤師が専門性を発揮し、真に国民に貢献できる制度に〜 · Change.org

権限の問題はどう考える?

はたから眺めているだけでも、胸のざわつくような運動です。こうした専門家の権限の問題は、しばしば、反対・賛成に立場が二分します。自分たちの業界の論理だけで権限を囲い込もうとすると、世間からは「既得権益」と批判されます。一方で、業界の都合ではなく、利用者や社会の利益を考えて、権限を絞るべき場合もあります。仮に、専門書を読みかじっただけの無免許の素人が、病院でガンの治療行為が許される世の中だったら、とても怖い。

専門性が高く、複雑な権限の問題を、私たちは、どんなふうに判断したらいいのでしょうか。

権限の問題を測る2つの”ものさし”

私は2つの”ものさし”を使うと、整理しやすいと考えています。今回のような薬剤師の権限を引き合いにすると、こうです。

経費の節減

1つは、経費の節減です。薬剤師ができるのに、医師しかやってはいけない。そんな行為があります。それをわざわざ、医師がやるのは、効率が悪い。薬剤師よりもはるかに人件費の高い医師に、そんな仕事をさせるのは、経済的にもったいない。世の中の企業では、そんなとき、子会社を作り、本社の高い給与とは別の給与水準の組織の中でその仕事を任せます。仕事を他者に振るというのは、ありふれた経済活動です。ちなみに、市販薬販売の業界では、薬剤師と登録販売者の関係が、これに近いでしょう。

質の向上

2つめは、質の向上です。薬剤師ができることは薬剤師にやってもらったほうが、医師は医師の能力を活かした仕事に集中できるかもしれない。それに、その仕事は、ふだん、薬ばかりを触っている薬剤師のほうが経験値が蓄積されていて、得意で、正確だったり迅速だったりするかもしれない。このように、権限を他者に与えることで、サービス全体の質がむしろ向上することもあります。

”ものさし”があれば理想に近づける

1つめの経費節減は、だいたい、なにかとトレードオフになります(多くは安全性と引き換えになります)。そのため、反対意見がでやすくなります。今まで抱えていた自分の仕事を取られるという危機感から、感情的に受け入れられず、反対する人も出てきます。人間だもの。

だから理想をいうならば、経費節減もできて、質も向上して、それでいてデメリットはナシ!・・・現実にはこんな完璧な解決案はそうそう思いつきません。でも、”ものさし”を用意することで、理想に近づくための議論はできそうです。

「薬剤師に処方権を」運動でも、この2つのものさしのいずれかで考えている発言は、見ていてとても納得感があります。少なくともわたしは。

市販薬業界にもある運動のタネ

市販薬販売にもたくさんの規制があります。

発毛医薬品のリアップは、登録販売者が売ってはいけないのか?

要指導医薬品は、ネットで販売してはいけないのか?

販売時間内は、資格者が常駐しなくてはいけないのか?

市販薬業界にも潜在的な運動のタネが眠っているように思います。権利を与えることも、与えられることも、明日は我が身。「薬剤師に処方権を」運動を、自分の業界に引き寄せて考えると、新たな発見がありそうです。