専門用語で「添付文書」と呼ばれている薬の説明書が、解熱鎮痛剤や風邪薬を対象に変更されることになりました。厚労省の外郭団体PMDAが8日、発表しました。
対象成分は、解熱鎮痛成分の「イブプロフェン」「ロキソプロフェン」「ナプロキセン」の3つ。これらを含む商品は、添付文書の「相談すること」の欄に、心筋梗塞や脳血管障害が副作用として生じる可能性があることが記載されました。
これらの解熱鎮痛剤はCOX2と呼ばれる酵素の働きを阻害します。COX2が阻害されることで、血管の働き等を司るプロスタサイクリン(プロスタグランジンI 2)の産生が抑制されます。そのために、不整脈が起こりやすくなるなどの心血管系のリスクが高まると考えられています。
https://academic.oup.com/eurheartj/article/37/13/1015/2398407
今回の変更がおこなわれた背景には、「NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)」によって、解熱鎮痛剤と心筋梗塞・脳血管障害の関連性が示唆されたことがあります。NDBとは保険診療に関連するデータのことで、2012年〜2020年までのデータを解析したところ、解熱鎮痛剤の使用時期と心血管系の病気の発生に、関連性がみられたようです。もともと、米国や欧州では、両者の関係性については注意喚起の記載がされていましたが、日本で明記されていたのは一部の薬だけだったようです(ロキソニン、ブルフェンでは心不全患者には禁忌にはなっていましたが、これは別機序による心機能悪化を懸念してのことだと思います)。医療用医薬品の解熱鎮痛剤の添付文書が変更されることに伴い、市販薬も一緒に変更することになったというのが今回の経緯です。
このように膨大なデータが集積・活用を通じて、副作用リストが増えることは、今後も起こり得そうです。ただ、マスのデータがどこまで個々人のリスクを表しているかは別問題です。今回の例でいえば、医療用医薬品というさまざまな患者を対象としたデータを、比較的健康な人が短期間で使うことの多い市販薬に流用して記載しています。情報量が多くなればなるほど、添付文書の使い方、読み方の難易度も高まります。使用者側に求められるヘルスリテラシーの度合いも高くなりそうです。
https://www.pmda.go.jp/files/000270714.pdf
なお、同じタイミングで、医療用医薬品の解熱鎮痛剤では、妊婦への投与の注意記載も変更されています。胎児の動脈血管収縮へのリスクを、いままでよりも、よりはっきりと記載することになりました。報告書を参照すると、国内外のデータを集積するなかで、表記変更が妥当であると判断したようです。妊婦・胎児の副作用には誰もが特別の注意を払うものですが、幸い、ここまでのデータをみるかぎり、特別大きなリスクがあるわけではないようです。国内では因果関係が否定できない例が3例、いずれも死亡には至っていません。このリスクは2022年に添付文書に盛り込まれています。わたしのブログでも過去に紹介しています。
日本の市販薬については、今回該当する解熱鎮痛剤はもともと妊婦への使用してはいけないことになっていますので、添付文書の変更はありません。
それでは引き続き、よい三連休みをお過ごしください。